消防士による水害・洪水対策リスト|現場経験から解説

水害対策
  1. 「うちは山に囲まれているから、水害は関係ない」——その思い込みが、能登の現場では何度も命取りになりました
  2. はじめに
  3. 水害は「3つのフェーズ」で考える
    1. ① 前兆期(台風接近・大雨警報〜数時間前)
    2. ② 氾濫期(浸水開始〜ピーク)
    3. ③ 孤立期(水が引くまで・引いた後)
  4. 🔴 今日やること|お金をかけずに今すぐできる7つ
    1. ① 自分の家のハザードマップを確認する
    2. ② 避難場所と避難経路を2パターン以上決めておく
    3. ③ 家族との連絡手段・集合場所を決めておく
    4. ④ スマホに防災アプリ・自治体の防災メールを登録する
    5. ⑤ 車のガソリンを半分以下にしない
    6. ⑥ 重要書類・通帳・印鑑をひとまとめにしておく
    7. ⑦ お風呂の水を抜かない習慣をつける
  5. 🟠 1週間以内にやること|生きるために必要な備え9つ
    1. ① 最低3日分、できれば7日分の水・食料を備蓄する
    2. ② 携帯トイレ・簡易トイレを用意する
    3. ③ モバイルバッテリー・予備電源を確保する
    4. ④ 土のう・止水板の準備、または代用品を用意する
    5. ⑤ 防災リュックを玄関・寝室など取り出しやすい場所に置く
    6. ⑥ 懐中電灯・ラジオ・予備電池を点検する
    7. ⑦ 自治体の「警戒レベル」の意味を理解しておく
    8. ⑧ ペットがいる場合の避難方法を決めておく
    9. ⑨ 床上浸水を想定し、大事なものを高い位置に移しておく癖をつける
  6. 🟡 1ヶ月以内にやること|怪我・被害を防ぐための備え6つ
    1. ① 自宅周りの排水溝・側溝を掃除しておく
    2. ② 火災保険・地震保険の水害補償を確認する
    3. ③ 浸水を想定した家具の配置を見直す
    4. ④ 長靴・濡れても良い動きやすい服を備える
    5. ⑤ 自宅の止水対策(止水板・防水テープなど)を本格導入する
    6. ⑥ 近隣との関係を作っておく
  7. 🟢 余裕があればやること|長期対応・設備強化5つ
    1. ① 自家用車を高台や立体駐車場に避難させる手段を確保する
    2. ② 蓄電池付き太陽光発電システムの導入を検討する
    3. ③ 簡易の井戸や雨水タンクの設置を検討する
    4. ④ 高基礎・嵩上げなど、家そのものの水害対策を検討する
    5. ⑤ 地域の水害ハザード情報をSNS・町内会で共有する仕組みを作る
  8. まとめ|まずは1つだけ、今日中に

「うちは山に囲まれているから、水害は関係ない」——その思い込みが、能登の現場では何度も命取りになりました

はじめに

「ハザードマップを見たら、うちは浸水想定区域外だった。だから大丈夫」
そう思っている人ほど、危ないと私は感じています。

私は消防士として21年、救急救命士として15年、現場に出てきました。能登半島地震の発災当日に緊急消防援助隊として派遣され、その後の能登半島豪雨でも現地に入りました。地震の後の豪雨というのは、平時の水害とはまったく違う顔を見せます。地盤が緩み、川の流れが変わり、これまで一度も水が出なかった場所が、あっさり水没する。「ここは大丈夫」という土地勘そのものが、崩れた地形の前では役に立たなくなるのです。

水害がやっかいなのは、地震や火災と違って「予測できるのに、人は動かない」という点です。台風は何日も前から進路がわかります。大雨も警報が出ます。それなのに、毎年どこかで「まさかここまで来るとは思わなかった」という言葉を、私は救助の現場で何度も聞いてきました。

この記事では、消防士・救急救命士として水害現場に立ってきた経験をもとに、「今日やるべきこと」から「余裕があればやること」まで、優先順位をつけて解説します。地震・火災対策の記事と同じく、まずは1つだけでいいので、読み終えたらすぐ行動してください。

水害は「3つのフェーズ」で考える

水害対応は、地震とは時間軸がまったく違います。地震は「発生してから考える」しかありませんが、水害は「発生する前に動けるかどうか」がほぼすべてを決めます。私は現場でいつも、水害を次の3つのフェーズに分けて考えていました。

① 前兆期(台風接近・大雨警報〜数時間前)

この段階で勝負はほぼ決まります。避難するかどうかを決め、必要な備えを終わらせておく時間です。明るいうち、足元が見えるうちに動けるかどうかが生死を分けます。能登半島豪雨でも、夜間に避難しようとして側溝や用水路に流された方の救助要請が相次ぎました。「暗くなってからでは動かない」というのが、現場から強く言いたいことです。

現場の本音
水害の救助要請で一番多いのが「様子を見に外に出て流された」というケースです。側溝の蓋は水位が上がると見えなくなり、わずか10cm程度の流れでも大人の足はすくわれます。「川を見に行く」「様子を確認しに外に出る」——これだけはやめてください。

② 氾濫期(浸水開始〜ピーク)

水が実際に上がってくる段階です。この時点で避難していなければ、選択肢は「垂直避難(自宅の2階以上に上がる)」しか残りません。電気は止め、できれば事前にブレーカーを落としておく必要があります。漏電による感電・出火は、浸水中の住宅で実際に起きている事故です。

③ 孤立期(水が引くまで・引いた後)

水が引くまでの数時間〜数日、外部からの救助が来ない、あるいは遅れる時間帯です。能登半島豪雨では、道路の寸断によって支援物資が届くまで実質的に時間がかかった地域がありました。この孤立期をどう生き延びるかは、前兆期にどれだけ備蓄をしていたかにすべてかかっています。

覚えておいてほしいライン
床下浸水で「大したことない」と判断するのは危険です。床下浸水でも、家の電気系統・基礎・排水設備にダメージが出ていることがあります。「水が引いたから大丈夫」ではなく、専門業者の点検を受けるまでは油断しないでください。

🔴 今日やること|お金をかけずに今すぐできる7つ

① 自分の家のハザードマップを確認する

お住まいの自治体名+「ハザードマップ」で検索し、浸水想定区域・土砂災害警戒区域に該当するか確認してください。「区域外だから安心」ではなく、ハザードマップはあくまで想定であり、想定を超える豪雨は毎年のように起きています。

② 避難場所と避難経路を2パターン以上決めておく

1本道しか避難経路を知らないと、その道が冠水・通行止めになった瞬間に詰みます。徒歩での避難経路、車での避難経路、それぞれ2パターン以上を頭に入れておいてください。

③ 家族との連絡手段・集合場所を決めておく

浸水時は携帯の基地局が水没・停電で使えなくなることがあります。災害用伝言ダイヤル(171)の使い方を家族で確認し、はぐれた場合の集合場所を1つ決めておいてください。

④ スマホに防災アプリ・自治体の防災メールを登録する

気象庁の防災情報、自治体の避難情報、河川の水位情報をプッシュ通知で受け取れる状態にしておいてください。「気づいた時には手遅れ」を防ぐのは、情報を取りに行く力ではなく、情報が勝手に飛んでくる仕組みです。

⑤ 車のガソリンを半分以下にしない

災害時はガソリンスタンドに長蛇の列ができます。台風接近時・大雨予報の時点で満タンに近い状態を保つ習慣をつけてください。

⑥ 重要書類・通帳・印鑑をひとまとめにしておく

避難する際にすぐ持ち出せるよう、防水袋やジップロックにまとめておくだけで十分です。

⑦ お風呂の水を抜かない習慣をつける

断水時の生活用水(トイレを流す等)として使えます。地震対策でもお伝えした内容ですが、水害でも停電・断水は同時に起こるため、同じく有効です。


🟠 1週間以内にやること|生きるために必要な備え9つ

① 最低3日分、できれば7日分の水・食料を備蓄する

能登半島豪雨では、道路寸断により支援物資が届くまでに時間を要した地域がありました。1人1日3リットルを目安に、4人家族なら3日で36リットル、7日なら84リットル程度が一つの目安になります。乾パンや缶詰だけでなく、火を使わずに食べられるものを中心に揃えてください。

② 携帯トイレ・簡易トイレを用意する

断水時、下水道が機能していても水が流せないだけで生活は一気に苦しくなります。1人1日5回として、3日分で15回分が最低ライン、できれば多めに用意してください。

③ モバイルバッテリー・予備電源を確保する

情報収集と家族との連絡に、スマホのバッテリーは命綱です。容量の大きいモバイルバッテリーか、ポータブル電源があると停電中でも安心して情報を取り続けられます。

④ 土のう・止水板の準備、または代用品を用意する

ホームセンターに土のうがない場合、ゴミ袋に水を入れた「水のう」でも代用できます。玄関や勝手口など、水が浸入しやすい場所を事前に確認しておいてください。

⑤ 防災リュックを玄関・寝室など取り出しやすい場所に置く

押し入れの奥にしまい込んでいては、いざという時に間に合いません。地震対策と同じく、すぐ持ち出せる位置に置いておくことが重要です。

⑥ 懐中電灯・ラジオ・予備電池を点検する

停電時の情報源として、電池式のラジオは依然として有効です。電池切れ・劣化がないか、この機会に確認してください。

⑦ 自治体の「警戒レベル」の意味を理解しておく

警戒レベル3(高齢者等避難)、レベル4(避難指示)、レベル5(緊急安全確保)——この数字の意味を知らないまま当日を迎えると、判断が一拍遅れます。レベル4が出た時点で、原則として全員避難が必要だと覚えておいてください。

⑧ ペットがいる場合の避難方法を決めておく

同行避難ができる避難所かどうか、事前に自治体に確認しておくと当日に迷わずに済みます。

⑨ 床上浸水を想定し、大事なものを高い位置に移しておく癖をつける

普段から重要なもの・思い出の品を1階の低い位置に置かない習慣をつけておくと、急な浸水時にも被害を最小限にできます。


🟡 1ヶ月以内にやること|怪我・被害を防ぐための備え6つ

① 自宅周りの排水溝・側溝を掃除しておく

落ち葉やゴミが詰まっていると、本来流れるはずの水が逆流し、浸水被害が大きくなります。年に数回の掃除が大きな差を生みます。

② 火災保険・地震保険の水害補償を確認する

水害は火災保険の「水災補償」でカバーされますが、加入時にこの補償を外している契約も少なくありません。証券を引っ張り出して、補償内容を確認してください。

③ 浸水を想定した家具の配置を見直す

1階に重要な家電・家具を置いている場合、可能な範囲で2階や高い位置への移動を検討してください。

④ 長靴・濡れても良い動きやすい服を備える

避難の際に長靴やサンダルで足元をすくわれるケースが多くあります。底がしっかりした、紐で固定できる靴を用意してください。サンダルでの避難は危険です。

⑤ 自宅の止水対策(止水板・防水テープなど)を本格導入する

過去に浸水歴がある、または浸水想定区域に該当する場合は、簡易型の止水板の設置を検討してください。数万円台から導入できる製品もあります。

⑥ 近隣との関係を作っておく

孤立期に最後にものを言うのは、ご近所との助け合いです。高齢の世帯がいないか、声をかけ合える関係を平時から作っておくことが、結果的に自分自身を救うことにもつながります。


🟢 余裕があればやること|長期対応・設備強化5つ

① 自家用車を高台や立体駐車場に避難させる手段を確保する

車の水没は資産的な被害が大きく、エンジンに水が入った車は再始動させると重大な故障につながります。あらかじめ避難先候補(高台の駐車場など)を調べておいてください。

② 蓄電池付き太陽光発電システムの導入を検討する

長期停電時の電源確保として有効ですが、初期投資が大きいため、住宅環境・予算と相談しながら検討してください。

③ 簡易の井戸や雨水タンクの設置を検討する

断水が長期化した場合の生活用水確保策として有効です。庭がある住宅向けの対策です。

④ 高基礎・嵩上げなど、家そのものの水害対策を検討する

新築・リフォームのタイミングがあれば、基礎を高くする、1階を駐車場・収納にして居住space を2階以上にするといった抜本的な対策も選択肢になります。

⑤ 地域の水害ハザード情報をSNS・町内会で共有する仕組みを作る

個人の備えには限界があります。地域全体で情報を共有し、声をかけ合える仕組みを作っておくことが、孤立期を乗り切る最大の力になります。


まとめ|まずは1つだけ、今日中に

ここまで読んでいただいた方に、最後にもう一度お伝えしたいことがあります。水害は、地震と違って「予測できるのに対応が遅れる」災害です。台風は来るとわかっています。大雨警報も出ます。それなのに毎年、「まさかここまで来るとは」という言葉を、私は現場で聞き続けてきました。

全部を一度にやる必要はありません。今日できることは、まずハザードマップを確認することだけで十分です。能登の現場で何度も思い知らされたのは、「自分の土地は大丈夫」という思い込みほど命を脅かすものはない、ということでした。その思い込みを、今日、たった5分でいいので確認して崩しておいてください。

この記事を書いた人
元消防士・救急救命士・防災士。消防士歴21年、救急救命士歴15年。緊急消防援助隊として東日本大震災・能登半島地震(発災当日)・能登半島豪雨に派遣された経験を持つ。現場で見てきた「本当に役立つ備え」を発信中。

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